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胃の病気

胃の疾患のうち、代表的なものについて概説しますが、その前に胃の疾患と密接に関係しているヘリコバクター・ピロリ感染症に触れておきます。

ヘリコバクター・ピロリ感染症

胃の中は強酸性であるため、従来微生物は生息できないと考えられていました。1979年にオーストラリアの医師が、胃炎患者の胃の粘膜に未知の細菌を発見し、ヘリコバクター・ピロリ菌と名付けました。その後の研究で、このピロリ菌により、胃の様々な病状が引き起こされることが明らかになったのです。 ピロリ菌は、主に乳幼児期に様々な経路(菌に汚染された飲食物、保菌者からの口移しやペットなど)により、経口感染すると考えられています。世界では40~50%の人が感染しているとされていますが、保菌率はその国の衛生状況により異なります。日本では幼年期に衛生環境が良くなかった年代の方に保菌者が多く、環境の整った現代ではその数は減少しています。

ピロリ菌に感染しても、潰瘍や胃癌が必ず発症するわけではありません。しかし、感染したほとんどの人に胃炎がおこります。一旦感染すると、除菌しない限りピロリ菌は胃の中にすみ続け、慢性的炎症が引き起こされ、胃の粘膜を防御する力が弱まります。そこに、ストレスや塩分の多い食事、発癌物質などの要因が加わることにより、胃十二指腸潰瘍や胃がんなどが発生すると考えられています。その他、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、慢性蕁麻疹などの病気も、ピロリ菌と関連している場合があります。

ヘリコバクター・ピロリ感染症の検査

ピロリ菌の検査法には、尿、便および血液で調べる方法や内視鏡検査時に組織をとって調べる方法があります。また除菌判定にも用いられる尿素呼気試験と言う検査法もあり、現在最も感度が良い検査とされています。これらの検査は、内視鏡検査を受けた方の場合、健康保険でできますが、内視鏡検査を受けていない場合でも、健診でのオプションや自費で検査することが可能です。

ピロリ菌感染が判明した場合には、症状の有無にかかわらず除菌することが推奨されます。除菌の保険適応に関しても、感染の確認検査同様、内視鏡検査で胃炎が確認されることが前提となります(自費でもそれほど高額ではありません)。除菌には三種類の薬、すなわち胃酸の分泌を抑制する薬と二種類の抗生物質を用います(一次除菌)。この三種類の薬を一週間服用することで、80~90%の方が除菌に成功します。失敗した方のために、抗生物質を変更して再度行う場合もあり(二次除菌)、ほとんどの方は除菌に導けます。

ただし除菌後も一定の率で、胃がんが発生することが知られていますので、特に高齢で除菌された方は、引き続き定期検査を受けることをお勧めします。

急性胃炎

急性胃炎とは、胃の粘膜が突発的に炎症を起こした状態です。

急性胃炎の原因

急性胃炎の原因としてはアルコールの大量摂取、薬品や薬物の摂取(特にアスピリンなどの鎮痛解熱剤)、ピロリ菌の感染などがあり、ストレスや不安などの精神的な要因で起こる場合もあります。

急性胃炎の症状

急性胃炎の症状としてはキリキリするような上腹部の痛み、嘔吐などがあり、炎症が強い場合には出血を伴うこともあります。ただし、上腹部の痛みをもたらす疾患(胆石発作、急性膵炎、虫垂炎など)は少なくないため、発症時の状態や経過などを詳しく把握し、状態に応じて血液検査や内視鏡検査を含む腹部画像診断検査などを行って鑑別診断します。

急性胃炎の治療

治療は症状により制酸剤や鎮痙剤などを投与します(内服、点滴)。アルコール過量接種や薬物など、原因が明確な場合は、それを避けることが肝要です。

急性胃粘膜病変(AGML)

急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)とは、出血性胃炎、びらん(ただれ)、胃潰瘍などの胃の粘膜障害による出血性の病気の総称です。急性胃粘膜病変と急性胃炎はたがいに類似した病気で、急性胃炎を急性胃粘膜病変に含める考えかたもあります。

急性胃粘膜病変(AGML)の原因

原因としては、急性胃炎同様に、鎮痛薬や副腎皮質ステロイド薬などの薬剤、アルコール・香辛料などのとり過ぎ、そのほかの精神的ストレスや手術・外傷・熱傷によるストレスなどがあります。とりわけ、重症化し、緊急に内視鏡検査や治療を必要とすることが多い最大の原因は鎮痛薬(非ステロイド系消炎鎮痛薬:NSAIDs)の長期服用です。市販薬を含めて、鎮痛薬を必要以上に連用する場合などには注意が必要です。

急性胃粘膜病変(AGML)の治療

発症は突然で、上腹部の痛み、不快感などが生じます。潰瘍性病変などからの出血で吐血・下血などを起こし、緊急に内視鏡検査が必要となることもあります。

 原因となった食物や薬物がわかればこれをまずやめて原因の除去をおこないます。症状が軽ければ急性胃炎治療に準じて制酸薬、胃粘膜保護薬などを服用させます。吐血・下血を伴う場合や痛みが激しい場合は、早期の内視鏡検査を行い、結果や処置内容によっては入院が必要となる場合もあります。

慢性胃炎

胃炎は臨床経過により、上記した急性胃炎と慢性胃炎に分けられますが、一般に胃炎という病名を用いる場合は、慢性胃炎を意味します。慢性胃炎は胃の炎症が長期にわたって持続している状態で、大半はピロリ菌の感染によって引き起こされます。その他には薬剤や稀に自己免疫によるものもあります。

慢性胃炎は従来、表層性胃炎、萎縮性胃炎、肥厚性胃炎の三つに分類されていました。近年、胃がんはピロリ菌感染による慢性胃炎を土台として発症することが知られており、2014年にピロリ菌感染の有無を基本とした胃炎の内視鏡分類(京都分類)が発表され、以下のように分類されています。

(1) ピロリ菌未感染胃粘膜:正常胃
(2) ピロリ菌現感染胃粘膜:慢性活動性胃炎
(3) ピロリ菌既感染胃粘膜:慢性非活動性胃炎
(4) 薬剤による胃粘膜の変化

慢性胃炎の症状

症状としては胃もたれ・吐き気・腹痛・膨満感などがあります。症状や身体診察に加えて、内視鏡検査を用いて診断します。また、同時にピロリ菌感染の有無やがんの疑いがないかを調べます。内視鏡検査上は多くの方に胃炎の所見がみられますが、実際に症状があるのはその半分程度のようです。

慢性胃炎の治療

治療はピロリ菌感染がある場合は除菌を行います。非感染者の場合、症状に応じて胃酸を抑える薬や胃粘膜を保護する薬などを用います。

機能性ディスペプシア(FD)

機能性ディスペプシア(FD:functional dispepsia)とは、胃もたれや上腹部痛などの辛い症状を繰り返し感じることがあるのに、内視鏡検査等で胃に器質的異常が見つからない病気です。以前我が国では、「胃アトニー」「胃けいれん」「胃酸過多」「神経性胃炎」などと名付けられていました。FDは日本人の10~20%にみられるという報告もあり、決して珍しい病気ではないのです。

週に3~4回以上のもたれ感や食後早期満腹感、週に一回以上のみぞおちの痛みや灼熱感などが代表的な症状です。これらの症状があり、内視鏡検査等で原因が胃がんや胃潰瘍などの器質的疾患ではないことを確認し、診断します。

機能性ディスペプシア(FD)の原因

 原因としては胃の運動機能異常、生活習慣(脂肪摂取過多、コーヒー・アルコール・タバコ、不規則な生活など)、ストレスなどが考えられています。

機能性ディスペプシア(FD)の治療

上記が原因であるため治療は薬物療法の他、規則正しい食事や生活を送り、睡眠を十分にとるなどの生活指導が大事です。薬物療法は、酸分泌抑制剤や漢方薬を含む消化管運動機能改善薬などを、症状に応じて投与します。

胃潰瘍

胃潰瘍とは、胃液と胃壁を守る粘液の分泌量のバランスが崩れることにより胃の粘膜に傷がついた後、胃酸などの攻撃によって傷が粘膜の下にある粘膜下層や筋層などといった深いところまで達して、胃の壁の内側にくぼみ状の病変を生じた状態を言います。非常に深い場合、胃に穴が開くこともあります。

胃潰瘍の原因

胃潰瘍の原因の大部分はヘリコバクター・ピロリ菌感染によるものですが、ストレス、飲酒、喫煙、カフェイン、塩分の多いものや辛いもの、熱いものを多く摂取しすぎることでも発生します。

胃潰瘍の症状

胃潰瘍の症状には、心窩部痛、胃部不快感、食欲不振等のほか、胃からの出血により吐血や黒色便等を伴うことがあり、出血量が多い場合ショックを起こし、生命にかかわることもあります。

胃潰瘍の治療

治療は薬物療法が主体で胃酸分泌を強力に抑制する薬剤(プロトンポンプ阻害薬)を中心に投与します。治癒後休薬により再発することがありますが、ピロリ菌感染が確認された場合、除菌することで再発を少なくすることが可能です。内視鏡検査で活動性出血が確認された場合には、さまざまな手法で止血をこころみます。近年では外科的治療の対象になるものは穴が開いた場合(穿孔)などに限られています。

胃がん

胃がんとは胃に発生するがんの総称です。組織型や進行度により細分化されています。60歳代に発生のピークがありますが、その前後でもかかる可能性があります。男性が女性よりもかかりやすい傾向があります(約2倍)。胃がんの最大の原因はピロリ菌感染によるものですが、その他の危険因子として、塩分・飲酒・喫煙・刺激の強い食べ物の摂取などが有ります。近年では、胃がんの早期発見を目的として、血清ヘリコバクター・ピロリ抗体と血清ペプシノゲン(胃の萎縮の度合いを反映する酵素)の両者を測定する胃がん検診(ABC検診)が普及しつつあります。

胃がんの症状

発生する部位や進行度にもよりますが、症状がなく、検診などをきっかけに発見される場合も少なくありません。特に早期胃がんの場合には症状がない方がほとんどです。進行して潰瘍を伴ったりすれば、みぞおちの痛みを感じることがあります。がんで胃の出口や内腔が狭くなると食事がとれなくなり、胸焼け、嘔気・嘔吐、体重減少などの症状が出てきます。また、出血をきたすこともあり、その場合は貧血、黒色便などの症状が見られます。

胃がんの診断

胃がんの診断は内視鏡検査で直接腫瘍を観察し、そこから組織を取って(生検)、顕微鏡でがんであることを確認して行われます。胃がんと診断されると、進行度を示す病期診断をおこなうために、さらに胸腹部CT検査などの詳しい検査が行われます。こうして判定された病期診断をもとに治療方針を決めていきます。治療は、臨床病期(予想進行度)によって、大きく分けて3通り(内視鏡、手術、抗がん剤)の方法がありますが、詳しくはがんセンターなどの高度専門医療機関のサイトをご覧ください。

胃良性腫瘍(ポリープ、腺腫)

胃ポリープ

胃ポリープとは胃粘膜の一部が隆起したものです。病理学的には大きく胃底腺ポリープと過形成性ポリープという2種類に分けることが出来ます。胃底腺ポリープはピロリ菌の感染していない胃の粘膜にできることがわかっており、一方過形成性ポリープは、ピロリ菌感染に伴い生じてくるポリープです。胃底腺ポリープは同時に複数個が見つかる場合も少なくありませんが、基本的に癌化することはありませんので心配は不要です。過形成性ポリープはまれに癌化しますが、自然に消えてしまうこともあります。

症状はないことが多いですが、まれに吐き気・黒色便・吐血などが起こります。過形成ポリープには易出血性のものがあり、食べ物の刺激による慢性的な出血によって、貧血の原因となることもあります。診断は基本的に内視鏡検査で行います。上記二つのポリープは形態的に判別が容易ですので、一部(2cmを超える過形成ポリープなど)を除いて、生検による診断は不要です。

治療としては、過形成ポリープで出血が懸念されるものや貧血の原因となっているもの、2cmを超えるものに関しては、内視鏡を用いて切除する場合が多いようです。ピロリ菌感染が確認された場合には、除菌後縮小するものもあり、まずは除菌を行います。

胃腺腫

胃腺腫は胃ポリープと似ていますが、やや白っぽい扁平な小隆起で良・悪性の境界病変です。胃腺腫の頻度は内視鏡検査の1%程度とされ、ポリープ同様自覚症状に乏しく、内視鏡検査でたまたま見つかることが多いようです。ピロリ菌感染による高度の粘膜萎縮を背景に見つかることが多く、大きくなると癌化しやすい前癌病変とされるため、内視鏡的切除の良い適応です。

胃粘膜下腫瘍

上記で説明した胃がんやポリープ、腺腫は胃の粘膜から発生するものですが、病変が胃粘膜の下(胃の壁の中)に発生し、正常な粘膜に覆われて胃の内腔になだらかに突出しているものを総称して、胃粘膜下腫瘍と呼びます。多くの腫瘍は正常粘膜に覆われていますが、一部表面に顔をだしていることもあります。

粘膜下腫瘍の種類には、治療のいらない良性の病変から、治療を要する悪性病変までさまざまなものがあります。最も多いものは、消化管間葉腫瘍(GIST:gastrointestinal stromal tumor)で、その他、平滑筋腫や、脂肪腫迷入膵などがあります。

胃粘膜下腫瘍の検査

症状は乏しいことがほとんどであるため、検診などでのバリウムを使った胃透視検査や内視鏡検査で、偶然見つかる場合が大半です。内視鏡検査上は、表面が正常な粘膜に覆われた、立ち上がりのなだらかな隆起として認識されます。隆起の頂部にへこみや潰瘍が形成されることもあります。粘膜下に存在しているため、通常の生検では組織診断ができません。小さいものに関しては、良性である可能性が高いため、経過観察とすることが多いのですが、大きさが20mmを超えるもの、経過のなかで大きくなったもの、潰瘍をつくったり形がいびつであったりするものに対しては、悪性病変である可能性を考えて、CT検査や超音波内視鏡検査、場合によってはEUS-FNA(EUSガイド下穿刺吸引細胞診)という、超音波内視鏡を用いて針で病変を刺し組織を採取する検査などを追加して精査を進めていくことになります。

胃粘膜下腫瘍の治療

治療を要するような胃粘膜下腫瘍は、主としてGISTです。GISTは比較的まれな病気で、良性のものから転移を起こすような悪性のものまで悪性度はさまざまです。GISTの治療では、基本的に病変が胃に留まっているものについては外科的に切除することが原則となります。小さいものであれば、腹腔鏡によって行われる場合もあります。転移など他の部位に病変が及んでいる場合には、抗がん剤による化学療法を考慮します。

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