脂肪肝とは
脂肪肝とは肝細胞にトリグリセライド(中性脂肪)が沈着して、肝機能障害をきたす疾患の総称です。食生活の欧米化に伴い、脂肪を多く含んだ食事をとるようになってきた現代で、近年増えてきた病気です。肝臓の役割の1つに、使いきれなかった糖分や脂肪酸などを中性脂肪やグリコーゲンとして蓄える働きがありますが、その後使わずに逆にため込み続けると脂肪肝になってしまうのです。肝組織所見では肝細胞の30%以上に脂肪滴が認められ、画像診断検査でも脂肪沈着症が強く疑われる所見がみられます。自覚症状はなく、健康診断等でも早期発見が難しい上に、脂肪肝の中には知らない間に進展し、肝硬変や肝がんになってしまう怖いタイプのものもあります。また脂肪肝は、循環器系・呼吸器系疾患や糖尿病等の代謝性疾患等、様々な疾患を誘発、進展させることが多いため、決して軽んじてはいけない疾患です。
脂肪肝の原因
脂肪肝はアルコール多飲が原因である「アルコール性脂肪肝」と、それ以外の「非アルコール性脂肪肝(Non-Alcoholic Fatty Liver Disease=NAFLD)」に分けられます。
アルコール性脂肪肝は長期にわたる過剰の飲酒が原因となり生じるもので、長期とは5年以上、過剰の飲酒とはエタノール換算で一日60g以上とされています(常習飲酒家と呼ばれています)。エタノール換算で一日60gの飲酒とはおおよそ日本酒換算で三合、ビール中瓶三本(=1.5L)です。ただし女性の場合はこの三分の二程度の量でも生じるとされています。ウイルス感染等の他の原因が除外され、禁酒で改善が得られるのも特徴です。放置しておけば、一部は肝炎や肝硬変に進展する恐れがあります。
NAFLDの最も重要な原因は肥満です。特に内臓全体の脂肪量と肝臓の脂肪量は最も大きく関係します。最近「メタボリックシンドローム」といって2型糖尿病や脂質異常症、高血圧症などの関連疾患も脂肪肝の進展に大きくかかわります。ほかにも年齢や遺伝的素因やインスリン抵抗性も脂肪肝の原因にあげられます。また肥満とは逆に、極端な食事制限などで無理なダイエットをすると「低栄養性脂肪肝」として発症することもあります。いずれのタイプでも、確定診断には、肝炎ウイルスや自己免疫性肝炎、薬剤といった他の原因に伴う脂肪肝を除外する必要があります。NAFLDは2001年では有病率18%でしたが、ライフスタイルの変化と共に年々増加しており、2012年の日本の報告では男性32%~41%, 女性9%~18%と増加しています。
NAFLDの中には、肝硬変や肝がんに至ることのある進行するタイプである「非アルコール性脂肪肝炎(Non-Alcoholic Steato-Hepatitis=NASH) 」があることがわかり、最近注目を集めています。NASHは中高年の女性に多く、わが国では100万人程度の患者数がいると推測されています。
脂肪肝の症状
健康診断や人間ドックなどの機会に偶然肝機能の異常値が発見されることが多く、ほとんど自覚症状がありません。気づかないうちに進行し、前記したNASHから肝硬変、肝がんに移行すれば、病気の時期に応じた様々な症状が出ることがあります(肝硬変、肝がんの項を参照ください)。
脂肪肝の検査方法
血液検査で肝臓の酵素を調べるほかに、超音波検査(エコー検査)・CT検査などの画像検査で、肝臓への脂肪のたまり具合を判断します。特にエコー検査は簡便でありながら、正確性も高く非常に有用です。また前述の通り、NAFLDの確定診断には、肝炎ウイルスや自己免疫性肝炎、薬剤といった他の原因に伴う脂肪肝を除外する必要があり、問診や血液検査等で詳しく調べていきます。
NASHは組織学的診断名ですので、確定診断のためには肝生検が必要となりますが、NASHへの進展具合の参考となるスコアリングシステムがいくつかあります。特に有名なのが「Fib-4 index」と呼ばれるもので、年齢とAST・ALTという肝酵素、血小板数によって算出されるマーカーであり、最近良く用いられています。これが高値を示した場合、特に注意が必要です。
脂肪肝の治療方法
脂肪肝の治療は主に生活習慣の改善、食事療法や運動療法・薬物療法になりますが、原因、基礎疾患の治療が大原則です。すなわち、
- 肥満や内臓脂肪が原因の場合:減量や過度な食事を控える・適度な運動
- 糖尿病や高血圧・脂質異常症が原因の場合:それぞれの疾患の治療
- 2次性脂肪肝(ウイルス性や自己免疫性など):ウイルス治療や原因薬剤の除去など
薬物療法としては、2020年の「NAFLD/NASHに関するガイドライン(日本消化器病学会)」による推奨薬剤は以下の通りです。
ビタミンE
(強く推奨)
体内の活性酸素を除去し、肝組織を改善するため有用。ただし、脂肪肝に対する保険適応はないので注意が必要です。
糖尿病治療薬
(強く推奨~弱く推奨)
糖尿病を合併している脂肪肝の方で有効な薬剤がいくつか報告されています。糖分を尿からは排泄する薬やインスリンの働きをよくするお薬などです。しかし、いずれも脂肪肝には保険適応はないので、糖尿病として治療する上での候補といえます。
脂質異常症改善薬
(弱く推奨)
脂質異常症を合併する脂肪肝の方に肝酵素を下げる効果があり有用としています。ただし、エゼチミブなど一部の脂質異常症改善薬の検討は不十分とされています。
降圧薬(ARB・ACE阻害薬)
(弱く推奨)
高血圧を合併する脂肪肝の方に有用としています。
なお、慢性肝疾患全般で投与されることが多いウルソデオキシコール酸は、常用量として有用性は認められておりません。ほかにも有効性が期待され、現在臨床試験中の薬剤があります。
いずれの方法にしても、定期的に肝機能の数値を検査し現在の状態を把握していくことが大切です。