C型肝炎およびC型肝炎ウイルスとは
C型肝炎とはC型肝炎ウイルス(HCV)が血液や体液を介して感染することにより肝臓に炎症が起きる病気です。HCVに感染すると約70%の人が持続感染者となり、慢性肝炎、肝硬変、肝がんと進行する場合があります。現在わが国では約100万人程度のHCV感染者がいると推定されています。感染経路としては過去(1990年代以前)の輸血を含む血液製剤の使用、薬物濫用時の注射、刺青等が挙げられます。また頻度はB型肝炎と比較しまれですが、母子感染も知られています。感染者の中には未検査のため感染を認識していない人や、感染を指摘されても医療機関を受診しない人も多く含まれていると考えられています。現在慢性肝炎、肝硬変、肝がん患者の半数以上がHCV感染者であり、近年の我が国における肝がんでの死亡者数(年間約3万人)を考慮すると、一般の方へのC型肝炎に関する正しい知識の啓蒙が重要と思われます。
C型肝炎の症状と経過
C型肝炎の症状
肝臓は「沈黙の臓器」ともいわれ、肝炎になっても自覚症状が乏しい方が少なくありません。症状があっても何となく体がだるいとか、疲れやすいとか、食欲がわかないといったほかの病気でみられる症状であることも多くあります。肝硬変に進行したり、肝がんを合併しても初期には無症状であることも少なくなく、そのため感染や病気の進行に気づかないまま時間が経過し、症状が現れてから医療機関を受診された時には、病状がかなり進んでいて治療に難渋することもあります。具体的には、著しく肝臓の機能が低下することにより、皮膚の黄染(黄疸)、腹水や手足のむくみ(肝性浮腫)、意識障害(肝性脳症)が出現するいわゆる「肝不全」の状態や、肝臓がんの破裂・出血による腹痛や血圧低下など重篤な状態で医療機関を受診する例などが挙げられます。このような状態に至った場合、内科的治療では救命困難となる可能性が高いと思われます。 血液検査を受けて初めてC型肝炎にかかっていることが判明する場合や、すでに肝硬変になってしまってからわかることも多々ありますから、健康診断などの機会に少なくとも一回は肝炎ウイルス検査をすることが重要です。
C型肝炎の経過
病気の進行には個人差がありますが、一般的な自然経過としてはHCV感染後 20~30年で肝硬変、肝がんへと進行していくことが分かっています。
HCVは感染後、2~14週間の潜伏期間を経て急性肝炎を起こすことがありますが、比較的まれです。感染した人の60~80%はウイルスが自然に排除されることなく、持続感染に移行し、このうち多くの人が慢性肝炎になると言われています。慢性肝炎の患者さんのうち、30~40%の方が約20年の経過で肝硬変に進行します。肝硬変のうち肝臓の働きが保たれて合併症に乏しい軽度なものを「代償性肝硬変」、より進行し様々な合併症を伴うものを「非代償性肝硬変」といいます。非代償性肝硬変では前述したように、黄疸や腹水貯留、意識障害が進行していきます。さらに肝硬変では年率約7%の頻度で肝がんが合併するというデータが報告されており、特に60歳をこえると肝がんになる確率が高くなると言われています。また肝硬変に多い合併症として食道静脈瘤があり、進行して破裂した場合命にかかわることもあります。
C型肝炎の検査
ウイルス学的検査
HCV抗体
HCVに感染しているかどうかを調べるスクリーニング検査が、血液によるHCV抗体検査です。この検査は簡便なため健康診断で実施している場合もありますので、過去の健診結果や受診する健診内容を確認してみることをお勧めします。もしこれまでに調べたことがなければ、一生に一度は検査をすべきです。とくに、1990年代以前に大きな手術や輸血を含む血液製剤の投与を受けた方、ご家族にHCV陽性者がいる方には、ぜひ検査をお勧めします。
HCV核酸増幅検査(HCV-RNA定量検査)
HCV抗体陽性の場合、大部分はHCVに一度は感染したことを意味しますが、現在も持続感染をしている人と、治癒をしてウイルスのいない人が含まれます。また少ないながら感染したことがないのにもかかわらず、陽性の結果となる場合もあります(偽陽性)。そこで次に精密検査として、PCR法を用いたHCV核酸増幅検査(HCV-RNA定量検査)という、血液中にHCV遺伝子があるかどうかを調べる検査を行います。これが陽性であれば、現在HCVに感染していることを意味します。HCV感染後自然に排除された方や抗ウイルス治療で治癒した方ではHCV核酸増幅検査は陰性となりますが、HCV抗体検査は長期間にわたって陽性が持続します。HCV核酸増幅検査は、後述する治療の指標として用いられます。
さらにHCV核酸増幅検査に加えて、治療方法の選択や治療効果の予測のため、HCVの型を調べるセログループあるいはジェノタイプ(保険適応外)を測定し、これらを組み合わせて判断します。
血液生化学的検査・腫瘍マーカー、肝画像診断検査、肝生検
いずれもB型肝炎の項を参照してください。
C型肝炎の治療
C型慢性肝炎に対する根本的な治療は、HCVを体内から排除することです。以前は注射薬であるインターフェロンを中心にした治療がおこなわれていましたが、現在はほとんどの方がインターフェロンを用いない飲み薬での治療を受けています。標準的な治療を行うために、日本肝臓学会により医師向けにC型肝炎治療ガイドラインが作成されています。
インターフェロンを基本にした治療
1992年以降、わが国ではインターフェロンという注射薬を基本にした治療が開始されましたが、初期のインターフェロン治療は効果が不十分で副作用も多く、治療を中止にせざるを得ない方もおられました。その後リバビリンという飲み薬の併用、ペグインターフェロンという週1回の注射ですむ薬剤も開発され、さらに後述するウイルスに直接作用する飲み薬をペグインターフェロン、リバビリンと併用する3剤療法がおこなわれ、治療効果が格段に高まりました。しかしながら近年では、投与が容易で副作用も少ない飲み薬だけのインターフェロンフリー治療が中心となり、現在ではインターフェロン治療はほとんどおこなわれなくなりました。
飲み薬だけのインターフェロンフリー治療
わが国では2014年から、インターフェロンを使わない飲み薬だけの治療であるインターフェロンフリー治療が始まり、現在C型肝炎の抗ウイルス治療の主流となっています。この飲み薬はウイルス蛋白を直接標的として作用することによりウイルスの排除を狙うもので、直接作用型抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirus=DAA)と呼ばれています。2021年末時点で、ソホスブビル(ソバルディ)とリバビリンの併用療法(12週または24週)、ソホスブビル・レジパスビル配合錠(ハーボニー)による治療(12週)、グレカプレビル・ピブレンタスビル配合錠(マヴィレット)による治療(8週または12週)、ソホスブビル・ベルパタスビル配合錠(エプクルーサ)による治療(非代償肝硬変に対して12週または再治療に対してリバビリンと併用で24週)があり、ウイルスの型や肝炎の進行度や過去の治療歴の有無などを元に選択して投与されています。これにより、慢性肝炎から代償性肝硬変までの初回治療の場合、95%以上の人でウイルスを体内からなくすことが可能となりました。しかも、インターフェロンのような副作用が少なく、これまでさまざまの合併症でインターフェロンが使えなかった患者さんでも短期間で安全に治療ができます。それでも、それぞれの薬剤には特徴があり、合併する病気のために使えない薬や一緒に飲めない薬がありますので、どの治療法を選ぶかは患者さんの状態に合わせて医師と良く相談することが重要です。また過去にインターフェロンフリー治療を受けていてウイルス排除に至らなかった方は、薬剤が効かなくなっている「薬剤耐性」ウイルスをお持ちの可能性がありますので、肝疾患診療連携拠点病院(当地域では東京医科大学茨城医療センター病院が指定されています)との連携等により、次の治療(再治療)を決める必要があります。また、2019年2月より重度の非代償性肝硬変の方でも内服可能な薬(エプクルーサ)が登場しましたが、茨城県ではこの薬剤の投与に際しても、肝疾患診療連携拠点病院での判断が必要となります。
抗ウイルス薬は非常に高価ですが、肝がんの合併がない方は医療費助成を受けることが可能なため、自己負担は少額で済みます。
肝庇護療法
上記したように、現在ではインターフェロンフリー治療により多くの方ではHCV排除が可能となりました。しかしHCVを排除できない一部の患者さんには、B型肝炎同様、ウルソデオキシコール酸(内服)やグリチルリチン配合剤(注射)により、肝機能を正常に保ち、肝炎の進行を防止する肝庇護療法をおこなう場合があります。
医療費助成制度
B型肝炎同様、DAA治療に際しては、助成制度によって収入額により1万又は2万円の自己負担で治療を受けることができます。