膵臓とは
膵臓はみぞおちの奥、背中側にある細長い臓器で、胃、十二指腸、脾臓などの臓器や、門脈、腹腔動脈などの重要な血管に隣接しています。解剖学的には、十二指腸に近い側から、頭部、体部及び尾部に分けられます。膵臓は食物を消化する消化酵素(膵酵素)を含む消化液(膵液)を十二指腸に分泌する働きと、血糖を調節するインスリンなどのホルモンを出す働きがあります。
以下に膵臓の主な病気について概説します。
急性膵炎
急性膵炎とは、膵臓の急性炎症性疾患ですが、炎症は膵臓だけにとどまらず、周囲の臓器や組織にも波及し、重症時には遠隔臓器へも影響を及ぼして、いわゆる多臓器不全を招くこともある怖い病気です。日本ではアルコールと胆石が二大原因で、前者は男性の、後者は女性の多くを占めます。成因が特定できない場合、特発性と呼びます。発症の危険因子としては、アルコール、胆石のほか、脂質異常症や糖尿病の存在、薬剤なども考えられており、特殊な内視鏡検査の合併症の一つとして、発症することがあります。
急性膵炎の症状
アルコールの多飲後や、胆石症を持っている方が脂っこいものを多く食べた時などに、急に上腹部痛を生じた場合、急性膵炎の発症が疑われます。尿・血液検査で膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)の上昇があり、画像診断検査で急性膵炎に伴う異常所見を認めた場合、急性膵炎と診断されます。診断がつくと殆どの場合、病院への入院治療が必要です。入院後、身体所見や尿・血液検査及び腹部造影CT検査で重症度判定を行い、重症度に応じた治療を受けることになります。重症例での死亡率は、わが国では10%程度であり、高齢者ほど死亡率は高くなるようです。回復後も原因に対する処置(胆石性の場合胆のう摘出術、アルコール性の場合禁酒)が行われなかった場合、高率に再発を生じると報告されています。
慢性膵炎
慢性膵炎とは、膵臓で作られる消化酵素(膵酵素)が活性化されて、自分の膵臓をゆっくりと溶かす(自己消化)慢性の炎症です。主な原因はアルコールの長期過量摂取ですが、原因不明やまれに自己免疫機構により慢性膵炎になる方もいます。多くの慢性膵炎は徐々に進行し、今の医学では治癒は得られないため、進行を食いとどめる治療が主体になります。
慢性膵炎の症状
慢性膵炎の初期の段階における主な症状は上腹部痛や背部痛で、進行すると体重減少や慢性的な下痢などが見られます。体重減少や慢性下痢といった症状は、病状が進行して膵臓の機能が低下するにつれて、食物の消化吸収不良が起きることによります。さらにやせていくのにも関わらず、インスリン分泌低下による糖尿病の発症も起きます。
慢性膵炎の検査
多飲歴があり、飲みすぎた後に出現する上腹部痛や、脂っこいものを摂取してから数時間して腹痛が生じるなどの病歴がある場合、慢性膵炎を疑い検査を行います。診断には尿や血液検査及び画像検査が必要です。尿や血液検査ではアミラーゼやリパーゼなど消化酵素(膵酵素)の異常が手掛かりになります。自己免疫によるもの(自己免疫性膵炎)では血中のIgG-4の値が高くなることが多いとされています。画像検査としては腹部超音波検査、CT検査、MRI検査(MRCP)や、超音波内視鏡検査、内視鏡的逆行性膵胆管造影検査などがあります。これらにより、「膵管内の結石」や「膵全体に存在する複数ないしびまん性の石灰化」、主膵管の不整な拡張などの変化が見られれば、確定診断や診断に近づくことができます。
慢性膵炎の治療
腹痛を主な症状とする初期の治療は、アルコールによるものは禁酒が原則です。その他の場合、脂肪摂取制限や薬物治療による対症療法などが行われます。自己免疫によるものはステロイド剤による治療が有効です。症状が進み、消化吸収不良が起きれば消化酵素薬の内服、糖尿病を発症すればインスリン治療を行います。また、膵管の通りを良くする内視鏡治療を行ったり、膵石を取り除く体外衝撃波治療を行ったりすることがあります。まれに膵のう胞や胆道狭窄などの合併症に対しては、ドレナージや手術療法を行うこともあります。
膵のう胞性腫瘤
膵のう胞
膵のう胞とは、膵臓内にできた液体が貯留した袋状のもの(のう胞)のことです。肝臓や腎臓などにものう胞はできますが、特に珍しいものでもなく、これらの臓器の場合にはほとんどが病的意義はありません。しかしながら、膵のう胞の場合、腫瘍性のものと非腫瘍性のものがあり、種類により取り扱いが異なってきます。非腫瘍性のものは、急性膵炎や慢性膵炎のような炎症や、外傷などによる損傷に伴ってできるものです。一方で腫瘍性膵のう胞には、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性のう胞腫瘍(MCN)、漿液性のう胞腫瘍(SCN)などがあります。
腫瘍性膵のう胞の多くは症状に乏しいため、超音波検査やCT検査などの検査施行時に、偶然見つかることが多いです。良性が多いため、特に治療を要さず、経過観察する場合が多い疾患ですが、一部悪性のものがあり、また良性と診断されても時間が経過することで悪性化する膵のう胞も存在します。悪性が疑われる場合は手術によって切除する必要があるため、腫瘍性膵のう胞と診断された場合は、定期的に精密検査を受ける事が重要です。腫瘍性膵のう胞の中で、頻度はIPMNが圧倒的に多く、日常臨床でもしばしば遭遇します。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
IPMNは、良性(過形成や腺種と呼びます)から悪性(通常型の膵癌)まで様々な時期があり、一部は良性から悪性へと変化していくことが知られています。したがってIPMNと診断された場合に、良性から悪性までのどの段階にあるのかを、慎重に見極めることが重要になります。たとえ悪性化していても膵管内にとどまっている状態であれば、治療により根治が期待できますが、膵管外に広がってしまうと、通常の膵癌と同様に悪性度の高い癌となります。診断した時点での状態に応じて、きちんと経過観察していけば、癌になる前の段階で診断することが可能なので、IPMNは重要な疾患と言えるのです。
IPMNには、腫瘍が主膵管に存在し、粘液が主に主膵管にたまる「主膵管型」と腫瘍が主に分枝に存在し、分枝内に粘液がたまる「分枝型」及び両者の「混合型」に分類されています。多くは分枝型で悪性化する率も低いのですが、主膵管型や混合型は悪性化の危険性が高いとされています。分類による対処方法については、以前より国際診療ガイドラインが示されており、経過観察とする場合においても、それぞれの悪性化の危険度などを加味して、検査法や観察間隔及び期間を決めていきます。
またIPMNそれ自体が良性であっても、経過中に悪性度の高い膵臓がんが膵臓の他の部分に発生する可能性が高いことが最近わかってきました。そういった意味からも、IPMNと診断された場合には、定期的な精密検査が必要です。
膵臓がん
悪性度の高い膵臓がんは、膵臓が体の深部に位置するため、早期発見が非常に難しい病気です。また進行も早く、発見時には隣接する臓器や周辺にある重要な血管への浸潤が認められることも少なくなく、残念ながら現代医療においても生命予後が不良ながんの代表です。我が国では年間約3万4千人が亡くなっており、がん死亡の臓器別順位では第4位です。発症の危険因子として、喫煙や肥満、糖尿病、慢性膵炎、遺伝によるものなど、様々な要因が挙げられていますが、直接の原因は不明です(近年上述したようにIPMNの存在が、膵臓がんの危険因子であることがわかってきました)。
膵臓がんの症状
膵臓がんの初期症状は、腹痛や腹部不快感などありふれたものが多いため、症状による早期発見は困難です。黄疸、体重減少や腹水による腹部膨満などの症状よって発見された場合には、すでに病期(ステージ)が進行していて、治療が難しいことも少なくありません。
膵臓がんの検査
血液検査や各種腹部画像検査(超音波、CT検査、MRI検査など)などによって診断しますが、健診や人間ドックで最も行われている超音波検査の場合、膵臓全体の描出が不良であることが多いことから、早期診断が難しいと言われています(特に体部~尾部)。ただし最近、検査直前にミルクティーを飲用させて、膵臓全体の描出を良くするなどの工夫をして、早期発見に努めている施設もあります。
膵臓がんの治療
治療に関する詳細は省きますが、前述のように根治的手術が可能な例は少ないため、抗がん剤による化学療法が選択される場合が多いようです。最近の化学療法の進歩により、以前に比較して生命予後は改善されましたが、やはり治療に習熟した医療機関で受けることが望ましいと思われます。