大腸の主な疾患について概説します。
感染性腸炎(感染性胃腸炎)
感染性腸炎(胃腸炎)とは、「細菌又はウイルスなどの感染性病原体による嘔吐、下痢を主症状とする感染症である。原因はウイルス感染(ロタウイルス、ノロウイルスなど)が多く、毎年秋から冬にかけて流行する。また、エンテロウイルス、アデノウイルスによるものや細菌性のものもみられる」と厚生労働省のHPに定義が記載されています。このように感染性胃腸炎のなかで代表的なものとしては、ウイルスにより起こるウイルス性胃腸炎と、細菌によって起こる細菌性胃腸炎があり、これらは感染性胃腸炎の大半を占めています。
ウイルス性腸炎(胃腸炎)
感染性胃腸炎の中でもっとも多く、病原体としては主にノロウイルス・ロタウイルス・アデノウイルスの3つが多いとされています。ウイルス性腸炎は水様下痢・腹痛・嘔吐といった症状として現れることが多いため、脱水症状に気をつけることが第一です。治療は特に必要なく、脱水に対する対処療法で多くが自然軽快します。合わせて整腸剤等の薬をうまく併用しながら体調の回復を目指します。経口摂取が可能であれば、OS-1などの経口補水液を中心に摂取させ、症状改善に併せて食事を開始していきます。経口摂取が出来ない程症状が強い場合や、容易に脱水を起こしうる小児や高齢者の場合は、点滴や短期間の入院を要することもあります。
細菌性腸炎(胃腸炎)
一方、食中毒などのO-157やサルモネラ、カンピロバクターといった病原体による細菌性腸炎は、血便などの激しい症状を伴うこともあり、重症化しやすいという特徴があります。抗生物質の投与などの緊急性の高い対応が必要となることや、症状の重い方は入院での加療が必要になる場合もあります。特に小さなお子さんやご高齢の方など免疫力が低い方には注意が必要です。
炎症性腸疾患(IBD)
炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel disease)は腸に炎症を起こす疾患のうち、未だに原因がわかっていない「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」のことを指します。いずれも国の難病に指定されており、発症すると病状が悪い時期(活動期)と落ち着いている時期(寛解期)を繰り返すのが特徴で、長期間の治療が必要な慢性の病気です。日本では潰瘍性大腸炎約17万人、クローン病約4万人もの方がり患しており、特に10代から40代といった若い世代が多いです。潰瘍性大腸炎、クローン病は、ともに腸に慢性の炎症をきたし、腸の粘膜の浮腫、潰瘍、出血などを起こします。潰瘍性大腸炎はこれらの炎症が大腸にのみ起こりますが、クローン病は口から肛門まで消化管(食道、胃、十二指腸を含む小腸、大腸、肛門)のどこにでも起こり、とくに小腸と大腸に発生します。
潰瘍性大腸炎
前総理の安部氏がこの病気であることは広く知られており、それで初めて耳にした方も多いかと思います。潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができ、血便や下痢、腹痛などの症状が、慢性的に続くのが特徴です。経過中、寛解と増悪を繰り返すことも特徴的です。病変は直腸から連続的に、そして上行性(口側)に広がる性質があり、最大で直腸から結腸全体に拡がります。この病気は病変の拡がりや経過などにより下記のように分類されます。
1)病変の拡がりによる分類:全大腸炎、左側大腸炎、直腸炎
2)病期の分類:活動期、寛解期
3)重症度による分類:軽症、中等症、重症、激症
4)臨床経過による分類:再燃寛解型、慢性持続型、急性激症型、初回発作型
潰瘍性大腸炎の診断
診断のためには、最初に血性下痢を引き起こす感染症と区別することが必要です。便の培養検査などで下痢の原因となる細菌や他の感染症を検査し、鑑別診断が行われます。画像診断検査として、大腸の内視鏡検査を行い炎症の状態や範囲を調べます。その際に、組織を採取して顕微鏡で調べる病理検査を同時に行います。注腸検査と言う大腸にバリウムを注入してX線で見る検査もありますが、最近はあまり行われなくなっています。血液検査では、貧血や炎症反応に関する項目の異常を認めることがあります。潰瘍性大腸炎は、このようにして類似した症状を呈する他の大腸疾患と鑑別され、確定診断されます。
潰瘍性大腸炎の治療
原則的には薬による内科的治療が行われます。現在用いられている薬としては、5-アミノサリチル酸薬(5-ASA)製薬、副腎皮質ステロイド薬、免疫調節薬または抑制薬、抗TNFα受容体拮抗薬があり、病期や重症度に応じて投与します。しかし、重症の場合や薬物療法が効かない場合には、血液中から異常に活性化した白血球を取り除く血球成分除去療法や手術が必要となります。薬を正しく用いて寛解状態を維持することが重要です。また寛解状態が持続しても、一部の方はがんを合併することが知られていますので、医師の指示に従って、定期的な内視鏡検査を受けることが望ましいと思われます。
クローン病
クローン病は、主として若い成人にみられ、口腔から肛門にいたるまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が起こりうる、原因不明の疾患です。病変は小腸と大腸を中心とし、特に小腸(回腸)末端部が好発部位です。肛門病変を高頻度に合併し、しばしば高度な痔ろう(直腸と肛門周囲の皮膚をつなぐトンネルができる痔)を形成します。また病変が非連続性(病変と病変の間に正常部分が存在すること)であることも特徴です。それらの病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じます。
クローン病の原因
クローン病の原因として、遺伝的な要因説、感染症説、食事説などが報告されてきましたが、はっきりと証明されたものはありません。上記したように、若い方が中心で、発症年齢は男性で20~24歳、女性で15~19歳が最も多く、男性と女性の比は、約2:1と男性に多くみられます。
クローン病の症状
クローン病の症状は、侵される病変部位(小腸型、小腸・大腸型、大腸型)や炎症の程度により異なります。主な症状は腹痛、下痢、体重減少、発熱、全身倦怠感、肛門部病変ですが、下血、腹部腫瘤、貧血などの症状もしばしば現れます。またクローン病では、高度な炎症による瘻孔 、狭窄 、膿瘍などの腸管合併症や、関節炎、虹彩炎、結節 性紅斑などの全身性合併症が起こることも少なくありません。
クローン病の検査
上記の症状や貧血などの血液検査異常からクローン病が疑われた場合、内視鏡または消化管造影などの画像検査を行い、特徴的な所見が認められた場合に診断されます。内視鏡検査や手術の際に採取された検体の病理組織学的所見や、肛門病変の所見などが診断に有用な場合もあります。潰瘍性大腸炎同様、似たような病状を引き起こす可能性がある腸管感染症は、除外する必要性があります。
クローン病の治療
クローン病の治療としては、内科治療(栄養療法や薬物療法など)と外科治療があります。内科治療が主体となることが多いのですが、腸閉塞や穿孔、膿瘍などの合併症には外科治療が必要となります。栄養療法には、経腸栄養と完全中心静脈栄養があり、栄養状態の改善だけでなく、腸管の安静と食事からの刺激を取り除くことで腹痛や下痢などの症状の改善と消化管病変の改善が認められます。寛解状態であれば、低脂肪・低残渣食を中心とした通常の食事摂取が可能です。症状のある活動期には、潰瘍性大腸炎の項でも取り上げた薬物投与を行います。すなわち5-アミノサリチル酸薬(5-ASA)製薬、副腎皮質ステロイド薬、免疫調節薬または抑制薬、抗TNFα受容体拮抗薬です。また薬物治療ではありませんが、これも潰瘍性大腸炎同様、血球成分除去療法が行われることもあります。高度の狭窄や穿孔、膿瘍などの合併症に対しては外科治療が行われます。その際には腸管をできるだけ温存するために、小範囲の切除や狭窄形成術などが行われます。
虚血性腸炎(虚血性大腸炎)
虚血性腸炎は大腸粘膜の血流不全(虚血)によって、粘膜に区域性の変性や壊死、潰瘍をきたす疾患です。大腸全体の血流に関与する太い血管の閉塞(腸間膜動脈閉塞症)とは異なり、局所的な虚血であり可逆的なものです。虚血を起こす原因には、糖尿病、高血圧、脂質異常症などに伴う動脈硬化や、脱水による循環障害などの血管側の要因と、便秘による腸管内圧の上昇などの腸管側の要因があり、これらの要因が複合して発病すると考えられています。好発年齢は、以前は高齢者が多いと考えられていましたが、現在では10歳代をはじめとする若年者から、高齢者までみられます。性別では女性に多く、これは便秘などの誘因が多いことが関係していると考えられています。
虚血性腸炎(虚血性大腸炎)の症状
症状は、突然の強い腹痛に続いて下痢が起こり、徐々に血便や下血がみられるようになるのが典型的です。血管の解剖上、身体の左側に位置する大腸の部位(下行結腸、S状結腸)に好発するため、お腹の左側が痛むことが多いです。吐き気や冷や汗を伴うこともあります。典型例であれば、病歴でほぼ診断は可能です。
虚血性腸炎(虚血性大腸炎)の診断
診断に最も有用な画像検査は大腸内視鏡検査です。虚血部分の粘膜が赤く腫れて見え、腸管の形に沿った潰瘍(縦走潰瘍)がみられることがあります。病変は区域性で健常部との境界は明瞭です。施行する場合は、なるべく速やかに行うことが望ましいとされています(軽症例では数日で所見が消失する場合があります)。また、腹部CT検査や腹部超音波検査では、虚血に陥っている大腸の壁肥厚を認めることが多いです。最近は行なわれることが少なくなりましたが、注腸検査でも特徴的な所見が得られることがあります。血液検査では、炎症反応の上昇などがみられますが、この疾患に特徴的な所見ではありません。鑑別としては、腹痛や血便を起こしうる疾患全てであるので、一度は大腸内視鏡検査を行う必要があります。
虚血性腸炎(虚血性大腸炎)の治療
多くの場合は、安静と経過観察のみで速やかに回復します。中等症や重い基礎疾患を有している例などでは、入院の上、絶食、点滴で経過を見ることがあります。また稀ですが、壊疽型と呼ばれる重症例の場合、外科手術の適応になります。通常、後遺症はみられませんが、稀に回復後大腸が狭くなること(狭窄)があり、狭窄による症状が強い場合(腸閉塞など)、やはり手術が必要になることがあります。便秘が誘因と考えられる場合、緩下剤などを投与し、再発予防に努めます。
過敏性腸症候群(IBS)
過敏性症候群(IBS:irritable bowel syndrome)はおもにストレスを原因として、下痢や便秘を慢性的に繰り返す疾患です。お腹の痛みや張った感じ(膨満感)、残便感や食欲不振などがあり、それと関連して便秘や下痢などが数ヵ月以上続く状態で、そういう症状をもたらす腸の病気(大腸腫瘍や炎症など)がない時に最も考えられる病気です。年齢や性別にかかわらず、非常に多くの方が当てはまると推定されており(日本人のおよそ7人に1人)、日常的に遭遇する疾患です。女性のほうが多く、30代より若い世代に比較的多い傾向があります。命に関わる病気ではありませんが、お腹の不調やそれに対する不安などの症状のために、学業や仕事に支障をきたすことが少なくありません。
過敏性腸症候群(IBS)の症状
IBSのおもな原因と考えられているのは、腸と脳(ストレス)の関係です。ストレスによって不安状態になると、腸の収縮運動が激しくなり、また、痛みを感じやすい知覚過敏状態になり、腹痛や便通異常が発生してしまいます。また、下痢や便秘などの腸の不調も、自律神経を介して脳にストレスを与えます。つまり、ストレスの悪循環が形成されてしまうのです。もちろんIBSの原因はストレスだけではなく、食生活や睡眠などの生活リズムの乱れや、タバコやアルコールの過剰摂取などとの関連もあると考えられています。
IBSはその症状によって、4種類に分類できます。
- 下痢型:男性に多く、「泥状便・水様便」が多い。
- 便秘型:女性に多く、「硬い便、コロコロ便(ウサギの糞のような便)が多い。
- 混合型:泥状便・水様便になったり、硬い便・コロコロ便になったりする。
- その他(分類不能型):以上のどれにも当てはまらない。
それ以外の症状としては、お腹がゴロゴロする、ガスが溜まる、何かお腹が気持ち悪いといった腹部症状のほか、頭痛、頭重感、疲労感、めまい感などの全身性症状、不安感や抑うつ感などの精神症状を伴うこともあります。
過敏性腸症候群(IBS)の診断
IBSの診断にはローマⅢ基準と呼ばれている国際的に用いられている基準を用います。確定診断のためには、血液検査や大腸内視鏡検査などの画像検査を行って、便通異常や腹部症状をもたらす他の病気を除外する必要があります。
過敏性腸症候群(IBS)の治療
IBSの薬物治療は症状(タイプ)に応じて、消化管の運動や便の正常を調節する薬などを使い分けていきます。ストレスがお腹の症状を引き起こすだけでなく、お腹の症状がストレスとなって悪循環を引き起こしていることも多いため、消化器系薬剤で効果が得られない場合、心療内科医と連携し、抗不安薬(精神安定剤)や抗うつ剤を使う場合もあります。薬は下痢や便秘などの腹部症状、不安、抑うつなどの精神症状を改善し、心身の苦痛を取り除くために有効ですが、IBSを根本から治せるお薬というのはありません。根本的な改善のためには、それぞれの症状に対するお薬を使いながら、ストレスや生活習慣の見直しなどを地道に行い、心身や生活のバランスを整えていくことが大切です。
大腸憩室症
大腸憩室とは、大腸壁に袋状のへこみができた状態です。発生部位により、左側型、右側型、および両側型に分類されます。従来、日本では右側型が多いとされてきましたが、近年では左側型、特に高齢者では両側型が増加しています。先天性と後天性があり、ほとんどが腸管内圧の上昇により生じる後天性です。腸管内圧上昇をもたらす誘因として、食生活の欧米化などが推測されています。
大腸憩室症の症状
多くは無症状で、大腸内視鏡検査などの画像検査施行時に偶然発見されることがほとんどです。中には、憩室部の血管が破れて出血する大腸憩室出血や、憩室内に細菌が感染して起こる大腸憩室炎といった急性疾患の合併につながることがあります。
大腸ポリープ
大腸ポリープは大腸粘膜に覆われた隆起を指し、腫瘍性(腺腫やがん)と非腫瘍性(炎症に伴うものなど)に分けられます。大腸内にできるポリープはがん化するものも少なくなく、腺腫と呼ばれるポリープがある場合は特に要注意です。大腸がんには、できた腺腫が悪性化してがんになる場合と、一気にがんになる場合とがあります。したがって、腺腫となった後に大腸がんになるものについては、良性のうちにそのポリープを取ってしまうことで大腸がんを予防することができます。
大腸ポリープの症状
大腸ポリープが、下血や便通異常などを契機に発見される場合もありますが、多くは無症状であり特異的な症状はありません。大腸がんになる可能性のあるポリープをより早期に見つけるためには、がん検診を受けていただくことが重要です。ただし、大腸ポリープは小さいものの場合、便潜血検査でも見つけることは難しく、内視鏡検査を行わなければ診断がつけられないのが実情です。大腸がんの場合には、がんが発生しやすい家系の方がいることが知られており、親子兄弟などの血縁関係者に大腸ポリープや大腸がんと診断された方がいる場合は、積極的に内視鏡検査を受け、疑わしいポリープが見つかった場合には、早期に切除することが望ましいと思われます。
大腸がん
大腸がんとは、結腸癌、直腸がんの総称です。ポリープの項でも触れましたが、腺腫という良性のポリープががん化して発生するものと、正常な粘膜から直接発生するものがあります。食生活の欧米化とともに男女とも増加しており、死亡者数は近年では肺がん、胃がんと並び上位に位置しています。
大腸がんの症状
早期がんでは自覚症状に乏しいことが多く、自覚症状が出る段階ではすでに進行していることが多いとも言えます。進行すると半数程度の方に症状が出るとされており、血便、下血、下痢と便秘の繰り返し、便が細い、便が残る感じ、おなかが張る、腹痛、貧血、体重減少などがあります。中には腸閉塞発症を契機に診断される場合もあります。
大腸がんの検査
大腸がん検診で施行される便潜血検査ですが、陽性率は約5~7%で、その陽性反応が出た方が精密検査を受けて、大腸がんが発見される確率は約2~3%と言われています。血液検査で特異的な検査はありませんが、腫瘍マーカーとしては、CEA、CA19-9、p53抗体が知られています。ただし、異常値を示した時には進行していることが多いため、早期発見には有用とは言えません(通常は、手術後の再発のチェックや薬物療法の効果判定の補助に用います)。
大腸ポリープ同様、早期発見のためには大腸内視鏡検査が最も優れており、また確定診断にも、検査時に施行する生検や切除による組織診断が必須です。大腸がんと診断されると、進行度を示す病期診断をおこなうために、さらに胸腹部CT検査などの詳しい検査が行われます。
大腸がんの治療
大腸がんの治療には、内視鏡治療、手術、薬物療法、放射線治療などがあります。治療法は、がんの進行度(臨床病期)、全身状態、年齢、合併するほかの病気などを考慮して決定します。早期に発見さえできれば内視鏡による切除で完治も可能です。外科的な手術が必要となると、身体への負担も大きくなり根気強い治療が必要となります。切除できない場合は、薬物療法を中心とした治療を行います。近年の化学療法の発展により、高度進行例でも延命期間が延びてきています。よりがんが進行している場合は、総合的に治療方法を判断します。それぞれ治療法の詳細に関しては、がんセンターなどの高度専門医療機関のサイトをご覧ください。
慢性便秘症
便秘の原因はさまざまですが、慢性的に続いている便秘(慢性便秘症)は、大きく「器質性」と「機能性」に分けられます。器質性便秘とは、大腸の形態的変化により便の通過が物理的に障害されたり、遅延したりするもので、前者としては、大腸がんなどの腫瘍性疾患やクローン病などの非腫瘍性疾患による狭窄が挙げられ、後者には巨大結腸と呼ばれる病気などが挙げられます。機能性便秘とは、こうした大腸の形態的変化を伴わないもので、腸や肛門がうまく働かず、便が排泄されるのに時間がかかるもので、慢性便秘症の多くが該当します。ここでは主に機能性便秘について概説します。
機能性便秘の症状
機能性便秘は、さらに「排便回数減少型」と「排便困難型」に分類されます。排便回数減少は、排便がおおむね週三回未満の場合をいい、腹部膨満感や腹痛などを伴う場合があります。排便困難とは排便時の過度のいきみ、便が硬くてなかなか出ない、排便後も便が残っている感じ(残便感)などの症状があることをいいます。
機能性便秘の傾向
慢性便秘症は若年層では女性の比率が高いのですが、加齢とともに男女ともに増え、高齢者では性差がなくなる傾向にあります。生活習慣との関連では、朝食を取らない、水分不足、運動不足などとの関連が指摘されています。逆流性食道炎、過敏性腸症候群、機能性ディスペプシアなどの消化器疾患と重複することが多いことも知られています。また、基礎疾患として、うつ病や心気症などの精神疾患や糖尿病や甲状腺機能低下症などの内分泌・代謝疾患が報告されています(二次性便秘症)。これらの疾患の場合、疾患自体に伴うもの(続発性)と投与されている薬剤の作用によるもの(薬剤性)に分けられます。便秘をもたらす薬剤として代表的なものには、抗コリン薬、抗精神病薬、抗パーキンソン病薬、麻薬などがあります。
慢性便秘症で悩んでいる方は大変多いのですが、便秘などたいしたことないと高をくくったり、便秘くらいで病院に来ること自体が恥ずかしいなどの理由で、受診をためらわれている方も少なくありません。しかしながら、近年の研究で、慢性便秘症は日常生活や仕事に支障をきたし、心血管系疾患や慢性腎臓病のリスクを高めることもわかってきました。一番怖いのは、ただの便秘だと思い込んでいたのに実は大腸がんなど重大な病が隠れているケースです。したがって「たかが便秘」と侮らず、安易に市販薬などに頼ったりせずに、消化器内科を受診することをお勧めします。上記したように、便秘がきっかけで、大腸がんなどの器質的疾患が見つかることもありますし、通常の慢性便秘症に対しても、現在では非常に多くの良い治療薬が開発されているからです。
機能性便秘の治療
治療薬としては、腸内で水分泌を引き起こして、排便回数を増やす働きのもの(浸透圧性下剤)や、大腸の神経を刺激して動きを活発にする作用を有するもの(刺激性下剤)が代表的ですが、ほかにも消化管運動賦活薬、漢方薬などがあります。また最近では、小腸内の水分泌を促して、便を柔らかくする薬(上皮機能変容薬)や、腸内の水分分泌促進作用に加えて、腸の動きを活発にし、排便を促す薬(IBA阻害剤)が開発され、使用されてきています。われわれは、これらの薬剤を症状、その方の体質や生活スタイルなどを考慮し、適切なものを見つけるよう努めています。もちろん、便秘症の背景に存在する食生活や睡眠などの生活習慣の改善も重要ですので、そうした指導もあわせて行っていきます。